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漫画家のアシスタントさんに画家と元アニメーターがアドバイスをしたお話(漫画の記号とデジタル画を描く上でアナログ画が描けることのメリット)


<今回私の姉を助っ人として授業に呼びました>

 

※今回の内容は過去最高に難しいです。

 

 

アトリエものさとは、一言でいうと「絵画の何でも屋さん」なので、いろいろな生徒さんがいます。

その中でも、プロの漫画家のアシスタントさんがいまして、今回はその授業のお話です。

私は、漫画に詳しくにないので、私自身もとても勉強になります。

授業のジャンルとしては講評になると思います。

ちなみに、以前にも別の授業内容をブログで書いています。

 

また、今回は内容がかなり専門的だったため、元アニメーターで同人誌の作家でもあった姉を助っ人として呼びました。

生徒さんも同人誌を描いているのですが、姉の同人誌を知っていたという、面白い繋がりも後々わかりました。

 

とにかく、お互いいろいろ勉強になる面白い授業だったのですが、今回はタイトル通り、

「漫画の記号とデジタル画を描く上で、アナログ画が描けることのメリット」について書きます。

 

あと、今回の授業内容は、講師だけでは指導が出来ないレベルの内容でした。

講師はイラスト、漫画は描けないので、基本的に「絵画視点から見た」指摘やアドバイスというかたちになります。

 

 

 

 

 <教室にあるデジタル画用の設備とソフト>


今回の生徒さんの質問


<生徒さんが描いた資料 ※個人が特定されそうな部分は伏せています>

 

 

今回、生徒さんは、ある漫画家さんのアシスタントの試用期間中とのことでした。

質問としては、人物のハイライトの入れ方が漫画家さんのイメージとズレがあるので、そこを何とかしたいという内容でした。

ちなみに、後日正式にアシスタントとしての採用していただいたという、嬉しい報告がありました。

また、その質問内容から実際に描いているツール上での説明も必要だと考え、事前に姉に相談して、当日来てもらうことになりました。

姉とは、たまに絵画とイラスト、アニメなどの違いなどの話もしていたので、快く引き受けてもらいました。

 

 

先にこのハイライトの話の結論を書くと、

 

①絵画的なハイライト(自然な明暗)と、今回の漫画表現は別物であり、「記号」として捉える必要がある。※詳しくは後述。

②漫画家の描き方ルールは、人それぞれバラバラであり、まずそのルールを理解することが前提である。

③アナログ画を長く描いた人が、デジタル画を描く場合、当然ながらアナログ独自の表現をデジタルに変換していることが多い。

④③の表現をする場合、アナログで実際にある程度描いてみないと、実感して理解することは難しい。

 

こんな感じの内容でした。

以下詳しく書いていきます。

 

 

 


 ①絵画的なハイライト(自然な明暗)と、今回の漫画表現は別物であり、「記号」として捉える必要がある。 


まず、上の文章の「記号」の意味が分からない人が多いと思います。

漫画家の手塚治虫は「漫画は記号」ということを話していますが、例えば下のような表現です。

※詳しくは説明はしませんが、今回は視覚的な表現に限定して話をします。

 


<漫画の記号(漫符)の例>

 

 

漫画の記号は「漫符」と呼ばれるようなのですが、感情などの表現を視覚的に表現したシンボル(象徴)というような意味合いです。

文章化すると、どうしても難しい話になるので、上の画像のようなものだと捉えてもられば大丈夫です。

 

 

 

 

 

<スネ夫の前髪問題>

 

漫画の記号の話で、ドラえもんの登場人物である「スネ夫の前髪問題」があります。

スネ夫の前髪は漫画的な記号なので、現実にありえない形をしています。

右を向けば前髪は右に、左を向けば左に伸びます。

無理やり3次元化すると上の画像のフィギュアのように、前に3つの突起が飛び出したような形になります。

そう考えると、2次元のキャラクターを印象を崩さずに、3次元のフィギュアにする原型師は物凄い表現といえます。

 

 

 

 


②漫画家の描き方のルールは、人それぞれバラバラであり、まずそのルールを理解することが前提である。


 

上の画像は生徒さんが描いたものですが、比較をすると赤丸のほうが自然なハイライトに近いです。

しかし、漫画家さんからは青丸のような表現にしてほしいと要望がありました。

本来、自然な光(上からの光源)の場合には足の中央付近にハイライトがあることは不自然です。

 

このような表現は、漫画やイラストだとよくあることで、なぜならば、このハイライトも先程話したように記号化されているからです。

光源の位置に関係なく、中央付近にハイライトが入ります。

また、この人体の中央付近にハイライトが入るのは、ある漫画界隈で今流行しているとのことです。

そのような「表現(形式)の流行」というものの影響もあるということなんですね。

 

つまり、飽くまで自然が前提ではなく、ある特殊な条件(作家本人の自由な条件)が前提の記号なので、そのルールを理解しないと描くことが出来ません。

生徒さんは、デッサンの授業もしていたので、その前提やルールの違いに悩んだのだと思います。

 

 

 

 

 

 

<講師が考えた今回の人体のハイライトについて>

 

 

また、この「人体のハイライトの記号」を表すことで、どのような効果があるのか講師なりに考えてみました。

元々、意図としては「人体の柔らかさや、ツヤ感を出る」ということを生徒さんは説明していました。

 

そう考えると、私の中ではイラスト、漫画等で使用される、ダイヤ型キラキラした記号と基本的に変わらないという結論が出ました。

敢えていうならば、人体版のキラキラ(ボリューム、ツヤ、柔らかさの光の記号)という感じです。

少し強引かもしれませんが、姉に後日その話をしたところ、意味合い的には分かるという反応でした。

 

 

 

 

 


③アナログ画を長く描いた人がデジタル画を描く場合、当然ながら、アナログ独自の表現をデジタルに変換していることが多い。


 

漫画家さんの指定するハイライトの位置については、先程結論が出ました。

生徒さんのもう一つの質問として、ハイライトの線の描き方の話がありました。

生徒さんが描くハイライトだと修正が入るようで、具体的には上の画像の青丸のような表現を生徒さんはしていて、

赤丸のような感じにしてほしいとのことでした。

 

先に結論を言うと、この漫画さんはアナログ画を長く描いていたので、「デジタル画で出来るだけアナログ的な表現をしたい」ということが考えられます。

そのようなことで、青丸の無機的な線ではなく、赤丸のようなちょっとしたブレや抑揚が求められました。

私の姉もアナログ画の経験が長いので、「修正液でハイライトを描く感じ」という表現をしていました。

また、漫画さんのペイントツールの使い方も通常のデジタル表現よりも、極端にレイヤー数が少なかったり、アナログに近い使い方をしていたとのことでした。

 

生徒さんが、違和感を感じながらも、このことに気づかなかったのは、デジタル画しか描いていないからでした。

このハイライトの線の抑揚は、修正液の話や筆で描いたことがある人にはすぐ理解できます。

逆にそれを理解していないと、デジタル画でどのようにすればアナログ画的な見え方に出来るかのプロセスがイメージが出来ません。

これは、アナログ画の経験が長い、講師と姉にとって大きな発見でした。

そのようなことで、やはりデジタルで表現する場合でもアナログで描けると表現の幅が広がることがよくわかりました。

 

 

 

 <筆を使って抑揚をつけたハイライトの線の練習>

 

ということで、生徒さんに実際の紙に絵具と筆を使って、ハイライトを描いてもらいました。

そうすると、すぐに漫画家さんのイメージしていたハイライトの感じを掴んでいたようでした。

また、デジタルと違い、後戻りが出来ないので、そういう不便さや緊張感が経験できたのも良かったと思います。

 

長文になりましたが、今回は漫画家のアシスタントの生徒さんの授業のお話でした。

ジャンルが近いけれども、別分野のプロ同士でいろいろ話が出来たので、私自身もとても楽しく勉強になりました。